ADL障害改善のキーポイントは認知機能障害にあった!
目次
ADL(日常生活動作)を阻害するのは認知機能障害?
脳血管疾患などの患者さんのADL(食事、更衣、入浴、トイレなど)障害される原因はどこにあるのでしょうか?
一般的には麻痺などの「身体的」要因が大きいと思われがちです。しかし、本当は「身体的」要因以上に「認知的」要因の方が重要であることが過去の研究より報告されています。
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例えば「あなたの利き腕を1週間使用しないで過ごして下さい」と指示されたらどうでしょう?最初はうまく出来ずに戸惑うことが多いでしょう。しかし、後半は自分なりに考えて工夫をすることで、何とか日常生活を送ることが出来るのではないでしょうか。
逆に、身体は元気でも考える力が衰えてしまえば(認知機能障害)、適切なADLを行うことは出来なくなるでしょう。
ADLとは
ADL(activities of daily living)とは、「日常生活動作」の意味があります。私達が普段生活するうえで必要な動作(食事、更衣、入浴、トイレなど)を指します。
ADLという言葉は、リハビリテーションや看護の世界では日常的に使用される用語であり、患者さんや利用者さんが日常生活をどの程度自立して行えているのかの指標となります。
ADL指標「FIM」
ADLの評価方法ではFIM(functional independence measura)が挙げられます。FIMは病院(回復期リハビリテーション病棟)などの評価手段にもなっており、近年は代表的なADL評価手段となっています。
FIMの評価項目
7点:完全自立、6点:修正自立(補助具使用)、5点:監視、4点:最少介助(患者自身で75%以上)、3点:中等度介助(50%以上)、2点:最大介助(25%以上)、1点:全介助(25%未満)
- 食事
- 整容
- 清拭
- 更衣(上半身)
- 更衣(下半身)
- トイレ動作
- 排尿コントロール
- 排便コントロール
- 移乗(ベッド、椅子、車椅子)
- 移乗(トイレ)
- 移乗(浴槽、シャワー)
- 移動(歩行、車椅子)
- 階段
- 理解
- 表出
- 社会的交流
- 問題解決
- 記憶
1~13項目までは「運動項目」、14~18項目は「認知項目」となっています。全項目1点~7点(最高126点、最低18点)にて採点します。尚、ADLの実施は普段の生活でおこなっているまま「しているADL」を評価します。リハビリなどで頑張ればできる「できるADL」を評価するのではありません。
認知機能指標「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」
5分から10分程度で実施可能であり、特別な知識や技術を必要としないことから、各病院や施設で最も普及している認知症テストともいえます。
- お年はおいくつですか?(2年までの誤差は正解) 「0・1」
- 今日は何年、何月、何日、何曜日ですか? 「年→0・1 月→0・1 日→0・1 曜日→0・1」
- わたしたちが今いるところはどこですか? (自発的に出れば2点、5秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか?から正しい選択をすれば1点 「0・1・2」
- これから言う3つの言葉を言ってみて下さい。あとでまた聞きますのでよく覚えておいて下さい。 「桜→0・1 猫→0・1 電車→0・1」
- 100から7を順番に引いて下さい (100-7は?それから7を引くと?と質問する。最初の答えが不正解の場合は打ち切る) 「93→0・1 86→0・1」
- わたしがこれから言う数字を逆からいって下さい。 (6-8-2、3-5-2-9を逆から言ってもらう、3桁逆唱に失敗したら、打ち切る) 「2-8-6→0・1 9-2-5-3→0・1」
- 先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみて下さい。 (自発的に回答があれば各2点、もし回答がない場合以下のヒントを与えて正解であれば各1点) 「植物→0・1・2 動物→0・1・2 乗り物→0・1・2」
- これらの5つの品物を見せます。それを隠しますので何があったか言って下さい。 (時計、鍵、タバコ、ペン、硬貨など必ず相互に無関係なもの) 「0・1・2・3・4・5」
- 知っている野菜の名前をできるだけ多く言って下さい。 (途中で詰まり、約10秒待っても出ない場合はそこで打ち切る) 「0~5個→0点 6個→1点 7個→2点 8個→3点 9個→4点 10個→5点」
※30点満点中、20点以下だと「認知症疑いとなります」
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過去のADLと認知機能の関連性の研究報告内容
過去の研究報告(ADLと認知機能の関係)の課題として、より細かい関係性の説明がないために、リハビリテーションプログラムに直接反映し辛いという状況がありました。
例)HDS-R合計(認知機能)が〇〇点以上だと、FIM合計(ADL自立度)は〇〇点~〇〇点になり易いなど。
そこで、より細かくADLと認知機能双方の項目別関係性を調べることで、効率的・効果的なADLリハビリテーションプログラムを構築することを目的として、管理人自身が調査研究を行いました。
例)FIM「食事」の自立度に強く関わっているのは「短期記憶」である。⇒「短期記憶」訓練を集中的に行うことで、「食事」の自立度を高めるなど。
管理人の研究報告内容
- 目的:FIM運動項目(13項目)別自立度(ADL自立度)に関与する認知機能検査項目(14項目)を選定する
- 対象数:61名
- 期間:平成28年1月~同年12月まで
- 方法:対象者より得たデータを統計処理(客観的方法)にて影響度を確定
当サイトでは多くの方にご理解頂くことを目的として、一部内容を平易な言葉に置き換えて記載しています。
結果
FIM運動項目13項目中、7項目に認知機能が「強く」影響していることが分かりました。
- 「整容」⇒類似問題、図形模写
- 「更衣(下半身)」⇒類似問題
- 「トイレ動作」⇒類似問題
- 「排便コントロール」⇒動物名想起
- 「移乗(トイレ)」⇒類似問題
- 「移乗(浴槽・シャワー)」⇒見当識
- 「階段」⇒類似問題、動物名想起、図形模写
FIM運動項目7項目中、5項目に「類似問題」が関与する特徴的な結果となりました。
類似問題とは
類似問題の検査内容は「2つの言葉の共通点(共通概念)」を答えるものです。
最初は簡単な問題「イヌとライオンの似ているところは?(答え)哺乳類など」となります。不正解になる方の回答は「噛む、吠える」など直接的な回答パターンになることが多いです。
段々と問題が難しくなり、最後は「金魚と松の木の似ているところは?(答え)生物」なります。最初の問題で回答パターン(見た目の共通点ではなく、概念の共通点)を掴むことができれば、その後の問題も回答が可能となります。ただ、認知機能障害のない方でも最後の問題は悩まれます…。
類似問題が指すものとして、「言語性IQ」もしくは「結晶性知能」があると言われています。
「結晶性知能」とは言語的能力や知識を中心としていて、加齢による影響を受けづらいを言われています。よって、脳血管障害など何等かの要因により早期に「結晶性知能」の低下をきたすことが、ADL自立度の要因になっている「可能性」が考えられます。
今後の方向性
「結晶性知能」は過去に培ってきた経験に基づく知能となります。それこそ、ADLとはその人が生まれてきたときから行ってきた動作であり、十人十色の方法があります。
今後は「結晶性知能」とADL自立度の関係性をより細かく調査するとともに、新たなリハビリテーションプログラムの構築を目指していきたいと思います。